2018年1月15日、「幻」とも言われる『盛安本源氏物語絵巻』のうち、夕顔の死を描いた場面が新たに発見されたというニュースがありました。
【フランスで】横たわる夕顔、嘆く光源氏…幻の「夕顔の死」見つかるhttps://t.co/YC3k6mNLQy
全容がわからないこともあり「幻」とも呼ばれる「盛安本源氏物語絵巻」のうち、夕顔の死を描いた場面が新たに見つかった。 pic.twitter.com/YFREcEu9uH
— ライブドアニュース (@livedoornews) 2019年1月15日
不幸な場面を描いたものは珍しいということで、大きく注目されたニュースでした。
源氏が悲しむ表情が特徴的
「源氏物語絵巻」というと、平安時代末期に作られた「国宝源氏物語絵巻」が一番有名だと思います。こちらは『源氏物語』の中でも「宇治十帖」に集中しているのですが、下の柏木巻の場面のように悲しい、落ち込んだ場面を描くこともあります。
その点は今回発見された夕顔の死の場面と似ているのですが、明らかに違うのが、描写されている人物の表情ですね。
柏木巻は顔ははっきりとしていますが、この時代の絵巻の特徴でもある「引目鉤鼻」の手法がとられていて、だいたい誰でも顔は同じです。基本的に表情はありませんし、よく「平安美人は不細工」と言われるのもこの手法が原因かと思われます。
ただ、これはこういう手法なので仕方がない。どの作品だって判で押したように目は細いし、鼻はくの字にササっと描かれているのです。
それでも「国宝源氏物語絵巻」は表情があるほうなのですが、今回発見されたものはそれよりも表情豊かなことに驚かされます。
夕顔は源氏と一緒に寝ているところを、よくわからないものによって殺されてしまう(よく六条御息所の生霊だと勘違いされますが、別物です)。突然恋人を失った源氏の悲しみが、袖でほとんど隠れた状態の顔からもうかがい知ることができますね。
フランスで見つかったというこの作品、江戸時代初期に描かれたものなので、そもそも技法も手法も平安や鎌倉とは違います。そこに、こういった描写の違いが生まれるのでしょう。
『源氏物語』を題材にした絵はたくさんある
ニュースになった作品は「絵巻」ですが、絵巻物でなくても『源氏物語』を題材とした絵はたくさんあり、「源氏絵」と呼ばれます。
例えばこちらは戦国時代に描かれたもので、土佐光吉筆。「若紫」巻の一場面です。絵巻ではなく、金の装飾が豪華な屏風絵です。
またこんな彩色が施されていない絵巻もあります。こちらも室町時代の作で、「若紫」巻。手法は平安・鎌倉と同じで、人物描写は引目鉤鼻の手法がとられています。
このほか、時代が下って江戸時代にはもっといろんな「源氏絵」が登場します。描写はそれまでのものと大きく変わり、時代時代の流行もわかります。
描かれる場面によって、どの巻が人気だったのかも見えてきます。『源氏物語』だけでなく、「源氏絵」を合わせてみるのもおすすめです。現代人には文章だけではわかりにくい調度品や襲の色柄など、目で見るとより楽しめますよ。